My Friend's Tarot

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ゲームの終わり〔7〕

【登場人物】
主人公・希美子(奔放で無邪気なOL)
カノエ(シッカリ者のIT事業経営者)
イッサ(俳優養成所に通う茶髪で軽快な青年) 
ケイ(実家は建設会社を営む無口で黒髪の青年、建設作業員)
広瀬たかし(カノエの元恋人で、イッサの先輩俳優

 そういえば田舎に帰るのは、もう七・八年ぶりになる。上京してから毎日が慌ただしく過ぎていった。劇団とアルバイトに追われ、恋をして、仲間と毎日のように飲み明かし、そんなことで忙しいと、実家に戻った事もなかった。


希美子は逆に、しばらくの間、仕事に打ち込んでもいいかと思っていた。今までは、腰掛け程度と見られている所に不満もあったが、言われてみればそうであったと、最近では感じるのだ。資格をとったり、手に職をもてるように頑張ってみるか!そんな風にも思える。そして、やがては自分の疑問の答えがでるときもくるだろう。焦っても仕方のないことだ。イッサへの返事は、そのうちに時がくるかもしれない。それも運を天に任せるというか、機会がくるのをまつのも良いように思える。最近はイッサも度々の連絡をしてこなくなったから、それもいいだろう。
 結果的に自分の軽率な行動で、三人の関係を壊したのだと思ったが、しかし、それを一番恐れていたはずの希美子なのに、今は後悔はないのだ。いつかはバラバラにならなければいけなかったのだと、そう思える。もう三人で会うことはないかもしれない。でも、新しい旅立ちのようにも思えるのだ。

カノエのマンションから小さなトラックが出発した。大きな荷物は、オークションに出して処分した。実家の部屋は、十八歳の時のままである。カノエは、手荷物をひとつ持っているだけだ。気分は悪くない。取りたてて悲しくもない。駅へ向う道を歩き始めた。
イッサや広瀬の出ている劇場を遠回りし、本当に芝居とはさよならだと思った。演技がしたい!それだけを胸に田舎から出てこれた若さが、懐かしかった。帰ることは、イッサ達にも何も言わないで行くことになる。
 と、突然、前のコンビニから飲み物がたくさん入った袋を持ったイッサが出てきた。
「カノエさん!」
カノエは驚いた。
「イッサくん。」
小さく呟き、カノエは黙った。
「ちょっとここで待っててください。」
飲み物を連れの者に渡し、中で何やら話してスグにコンビニから出てきた。
「行きましょう。」
イッサが誘導した。駅へ向って歩き出したかと思うと横道に入り、小さな公園に入った。誰もいない小さな公園である。イッサは空いたベンチに腰かけカノエに話しかけた。
「旅行にでも行かれるんですか。」
イッサが尋ねた。しばらく黙っていたカノエは、明るい声で
「なんだか疲れちゃった。」
そう素直に言った。
「広瀬先輩のこと気にしてるんじゃないですよね?先輩ヘンなんですよ!」
イッサは言い放った。カノエは違うんだよという感じで、優しく微笑んでイッサに話した。
「本当なのよ。広瀬が心配するのも無理ないの。」
 カノエはイッサに昔の自分のことを話して聞かせた。広瀬がいたのに、いつも次々と新しい恋をしていたこと。それでも悪いと思ったことすらなかったこと。そんな自分に嫌気がさし、もう一度まじめに頑張ってみようと思ったこと・・。そして
「昔の自分なら広瀬の言うように、イッサのことスグに誘惑したと思うよ!誰にでも関心があったの。」
そう言って笑った。そして
「私ね、夢は最後の恋をすることだったんだ。」
イッサにそう話した。
「こんな自分だから幸せになれなかったんだね、たくさんの出会いがあったのに・・・。だから一生そばにいられると思う人が現れるまで二度と軽はずみなことはしないって誓ったの。」
そしてため息をついて
「でも、もう頑張れない。私、田舎に帰るの。田舎でゆっくりと休んで考え直すわ。」
そう言った。
これがあのいつものカノエさんなのか・・・。いや、いつものカノエじゃなく、本当のカノエなのだ。イッサは思った。この小さな人が、今まで自分達を支え、自分自身も支えてきたのだ。イッサの中で放っていた、今までのカノエの強靭なオーラは消え、繊細で純真な女性(ひと)の面影に、ドキリとした。
「今日、これから俺、出るんっすよ。最後に見ていってくれませんか?お願いします。」
イッサの熱心な頼みに、悩んだカノエも承諾した。
「今日もセリフあるんで、よく見ててくださいね。」
イッサが楽しそうに言った。カノエとイッサは元来た道を劇場へと戻った。
 イッサに案内され席に着いた。
開演後しばらくして、カノエはライトに照らされた舞台にイッサが現れるのを見た。初めて見た時に感じた通り、イッサの出番には若い女の子達の喝采があちらこちらに起こった。イッサは逞しく、舞台の上では別人で自信にあふれていた。そのように感じるのだった。さっきこの劇場の前を通り過ぎる時に決別したはずなのに、熱い気持ちが溢れた。自分は、このために田舎から出てきたのに・・・何もかも自分が壊したのだ。悔やんでも悔やみきれない気持ちが蘇った。

 終演後、明るさを取り戻した客席では、帰り仕度をするものでごった返していた。やがて、約束どおり、まばらになった客席にイッサが現れた。力のない精一杯の気持ちで
「良かったよ。イッサくんは良いものがあると思う。これからも頑張ってね。」
カノエが言うと、
「じゃあ、打ち上げ打ち上げ!最後だから、カノエさんご馳走して下さい。」
イッサがそうハシャイだ調子で言った。また今度・・・というわけにはいかず、カノエはやむなく了解した。カノエはイッサといるのが辛かった。イッサといると、未練がましい、そんな自分に気づいてしまう。役者でもなんでもない。なのに気持ちはいつでも現役のころのように甦ってきて、イッサ達と仲間であるかのような錯覚に陥る。そして最後には、自分は仲間でもなんでもない、単なる友人なのだと惨めに痛感するのだ。
 イッサは、劇団の仲間の行かない店にカノエを案内した。
「ここ劇団のもの来ないんで・・・。」
イッサが言うと、
「もう、いいのよ。」
カノエは静かに言った。イッサはカノエにもビールを勧めた。今日、ものすごく緊張したセリフの話しをしたり、カノエにあれこれと感想を聞きだしたりして、数時間も過ぎた頃、少しの沈黙の後に突然、
「俺、カノエさんに、このまま東京に居て欲しいです。」
イッサがポツリと言った。カノエは考える力もなかった。ただ
「そうね。」
と軽く言った。
「へんに思わないでください。でも・・」
そう続けようとするイッサの話しを遮って、また
「ホントに、ありがとね。」
軽く微笑んで言った。彼はきっと広瀬との一件で責任を感じているに違いない。遠いなつかしい気持ちを感じながら、カノエはそう思った。
 トイレにと席をたったイッサが、しばらくして戻ってきた。カノエが最終電車に間に合うことを確認し、伝票を取ろうとすると、イッサが掴んでレジに進んだ。カノエは外に出てから
「ご馳走する約束だよ!」
と明るくいった。するとイッサは
「そんな気はないっすよ。」
と、ひとこと言った。

 イッサ達は駅へ向かっていた。無言の時間が、イッサ達に続いていた。カノエは、芝居に関わろうとする自分を、そこから引き離す運命の警告のような、広瀬との気まずい出来事を思いだし、本当に自分の人生を思うなら、キッパリとこの人達と終わりにすべきなのだ。そのような覚悟を急がされている気がした。駅ビルに着いたカノエはさよならの顔になり、切符売り場に向う。そんなカノエにイッサが、
「こっちです。」
突然に言ったかと思うと、カノエの返答を聞くようすもなく、
「いっしょに夜景を見ましょう。」
と言った。無人のエレベーターホールにスグに緑のランプが点滅し、イッサは無言でカノエをリードした。20階にエレベーターが止まり、イッサが鍵を開けている。さすがのカノエも躊躇した。いったい・・・。
 鍵をあけたイッサはカノエを中へと勧めた。窓の外にはカノエが暮らしてきた町の夜景が見えた。その夜景を目にして、今夜が最後なのだとカノエは思った。
「ここでカノエさんは必死に頑張ってきたんですね。」
イッサが夜景を見ながら言った。そして、思い切ったように
「カノエさん、もう少しだけ東京で俺のこと見ててください。俺、カノエさんに釣り合う男になれると思う。」
イッサは、感じるままに言った。自分は、また突っ走っているのかもしれない。けれど、これが今の自分の素直な気持ちなのだ。このまま去られたら、きっと自分は後悔する。自分は力の限り前に進むのみ。それだけが取り得なのだから・・。
カノエは急な出来事に頭の中が真白になり、夜景のせいかもしれないと虚ろな気持ちで、やっと
「イッサ、私、なんて言っていいのかわかならいの。何もわからないの。」
そう言うと涙が溢れてきた。
「何も言わないでいいんです。」
イッサは優しくカノエを抱きしめた。
 私が今迄してきたことはナンだったのだろう・・・。カノエは自分の気持ちに戸惑いながらも、イッサに優しく抱かれて呪縛が解けたような心地よさを感じた。安らぎというものが、初めてカノエの中に芽生えた瞬間だった。そしてカノエの心から、たやすい恋に関しての定義が自然に消えた。イッサの一途な行動と逞しさがカノエの心を溶かしたのだ。そして、それはとても暖かかった。
「イッサくん」
そう弟のように呼んでいた意識が、遠い過去になった。カノエは、今、感じるこの気持ちを大切にしようと顔を上げてイッサを見つめた。イッサの瞳がカノエを愛おしそうに見つめ、抱きしめた。これが、たやすい恋でも後悔しないと、カノエには思えた。自分を許せた瞬間だった。
 目覚めたカノエは、イッサの寝顔を眺めていた。そしてカノエは自分自身の気持ちを確認した。昨夜のことが、偽りではなかったことを・・・。カノエの中でイッサは、1人の愛しい男性として映っている。カノエは、イッサのベッドの横でイッサの目覚めるのを見ていた。やがて目を覚ましたイッサは、眠そうにしながらも、カノエに笑顔を向け軽くkissをした。
そして、カノエは帰ってくると約束し、田舎に戻っていった。 
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